「成年後見人」と「親なきあと」座談会
「成年後見人」と「親なきあと」問題について座談会を行いました。
「親なきあと」というのは、子どもより親が先になくなるのは自然の摂理。
しかし病気や障害のある子どもを残して先に亡くなった場合、子どもたちはどうなってしまうのだろう?という問題が、いわゆる「親なきあと」問題です。
(写真提供:加藤さくらさん)
◇加藤さくらさん(患者家族) 2児の母 次女は福山型先天性筋ジストロフィー デジリハや041など複数のプロジェクトに関わる
◇永峰玲子さん(患者家族) 1児の母。長女が大田原症候群を患い、患者会など様々な子どものための活動を行なっている◇宮副和歩さん(患者家族) 2児の母 次男が先天性の脳障害のため常時医療的ケアが必要 親の会など医療的ケア児に関する活動を行なっている
◇小泉道子さん(専門家/行政書士) 家族のためのADRセンターを運営 家庭裁判所調査官の経験から、成年後見人を選任する仕事に携わっており専門知識を持つ2児の母
◇藤木和子さん(専門家/弁護士) 法律事務所シブリング 代表弁護士 自身が「きょうだい」という立場から「きょうだい支援」に力を入れている
◇正木 隆資さん(専門家/司法書士) doors司法書士法人 代表 成年後見申立などの案件に携わった経験を有する
◇座談会協力 疾患別SNSケアランド
「成年後見人」と「親なきあと」
どうして今回この成年後見人の話を聞いてみたいと思ったのか?というところ、またどういうところが知りたいですか?
永峰さん
娘に障害があり、生まれつき難治性のてんかんがあって重い身体障害の子供です。
(写真提供:永峰玲子さん)
首が座らず全介助が必要だという状況です。結局、自分がなくなった後に、子供が一人っ子なのでその後どうなってしまうのかな?と気になって「親亡き後の問題」という講習会に参加したことがあります。
講習会では、成年後見人はお金の管理とか世話をしてくれるけれど、障害児数に対して後見人の数が圧倒的に少ないので、今のうちからいい人を確保しておかないと騙されるようなこともあるというような話がありました。
例えばお金を勝手に使わされるとか、詐欺的な被害にあうとか、あるいは親戚がいないような僻地の施設に追いやられるような話もありますとも聞いて。
であれば、元気なうちから頼れる後見人を探しておくことがいいと。
後見人はなくなった後に支払いが発生するので、生きているうちに頼れる人をまず見つけてくださいという話で、後見人を立てて準備したほうがいいですよとか、遺書を今のうちから書いておいてくださいというような情報を頂いて、ちょっと焦ったというところがあります。
今回は、お勉強も兼ねて参加させていただきました。
宮副さん
次男が、お腹にいる時から脳の障害がわかって生まれてきて寝たきりの首の座っていない重症心身障害児です。来年小学校に入ります。お兄ちゃんは二つ上の今2年生です。
(写真提供:宮副和歩さん)
人工呼吸器も使っていて医療ケアもかなり多く、将来を考える余裕はなかったんですが、お友達が成年後見の話をしていて、子供の名前で預金をしておかないほうがいいと聞きました。
将来本人が意思表示ができない子の預金がどうなるか?という話になりました。
子供のための手当をもらったりしており、どうやってちゃんと管理して行けばいいのか?
将来の子供のためになる財産管理の認識がないなと感じたので、勉強しないとなと感じていたので今回参加させていただきました。
実はわたし自身が社会福祉士を持っているので、いろんな財産管理をお手伝いできるような立場にはあるんです。
そして、わたし自身が今、家庭の事情もあってまさに成年後見人を使っている状態です。
親の認知症も進んだりしていて、そうすると自分が子供の立場なのでサインなどを書いたりして、急に身近に感じました。
できればもう少し制度的な話も具体的に知れたらと思いました。
専門家として、「成年後見人制度」についての概略についてご意見をいただければと思います。
小泉行政書士
家庭裁判所調査官という仕事を15年くらいしていまして、5年ほど前に東京の後見部にいたので成年後見人の調査などに関わっておりました。調査をして裁判官に報告をするというような仕事をしていましたので、一定見解をお伝えできるかなと思います。
成年後見の話ですが、この制度は非常に制限が多い制度と言われています。
例えば、今まで家計をほとんど一緒に使っていた場合、財産管理を全部成年後見人がやってしまうので、途端に家計を分けて考えなければいけない。
そこが一番の成年後見人の役割になりますね。
色々お世話はしてくれるかもしれないけれど、実際面倒は見てくれないし例えば病院で何か手術が必要だとなった場合、サインできるかできないかというところでも争いになったりという場合もあります。
もともと、親御さんと同じような役割ができるというわけではなくて法定代理人という立場になるんですね。
今、「早く見つけとなきゃいい人がいなくなっちゃう」っていう話を聞いて、あぁなるほどと思いましたが・・・
今は専門職と言われる人たちで行政書士・司法書士・弁護士・社労士が多く、おそらく一番多いのが司法書士さんですね。その他弁護士さんもありますが、やはり若干費用が高かったりはしますかね。管理をする金額によって成年後見人に支払う報酬が変わってくるので、やっぱりギリギリまで利用しない人が多かったりはしますね。
そして、先ほどのいい人がいなくなっちゃうっていう部分ですが、基本的には「監督」をするのでお金の使い込みであるとか、そういうことはほぼほぼないと思っていただければと思います。
それこそ使い込みがあったら新聞に載るくらいの事件になるので。
お金の使い込みというよりは、どれだけ親身になって施設を選んでくれるかだとか、お人柄によるのかなぁと感じますね。
先ほどの預金の話なんかであれば、
裁判所でもよくあったのが、障害をお持ちの方が施設に入ったりするときに契約をしないといけないので、それをきっかけに後見人を選任したりするんですね。
そうすると成人しているからといって障害のあるお子さんが自分のお金を管理できるわけではない。
年金などをお子さんの名義のところに貯めておいて必要なときに出したり、お子さんのために家のリフォームをしたりとかそういう時のために残しておいたんだけれども、成年後見人がついた途端にお金が自由に扱えなくなる。
一回一回その後見人に用途のお伺いを立てなきゃいけないのがめんどくさくなるという事例はありますね。
ただ突き詰めていうと、そのときに親御さんは既にいないんですね。
その後見人の役割は、本人の財産を守るためにいる人。
親の立場からしたら自分が生きていたら使いにくいんだけれども、裁判所が監督することも考えると月々支払わなければいけない金額のことをのければ使い勝手が悪いということはないと思いますね。
あくまで、本人を守る制度なので。
今できることといえば、さっきおっしゃっておられたような、あらかじめお願いできるような年齢の若い方とかですよね、そういう方を選んでおくとかはありますかね。
ただ自分がいつ死ぬかなんて誰もわからないので、その人もいつ死ぬかわからないので、なかなか唾をつけておくみたいなことは難しいかなと思いますね。
成年後見人だと、遺書などで未成年後見人を誰かに託すことを書いたりだとかということも有効かなと思います。その辺りは弁護士の先生どうでしょうか?
藤木弁護士
お子さんが未成年の場合は未成年後見人と監督人は遺言で指定できます。成人の場合は成年後見です。親御さんが元気なうちに、託したい方とお子さんの信頼関係作りや親御さんからの引継がきちんとできていると安心ですね。
「きょうだい」の立場からどのような印象を受けるか聞かせてください。
藤木弁護士
親なきあとの課題は、きょうだいにとっても大きな課題です。
20代、30代のきょうだいからは、親御さんから「将来はよろしく頼むね」と言われても具体的に何をするのか?どのくらい大変なのか?モヤモヤしている状態が不安だという話がよく出ます。
きょうだいとしては選択肢の内容を知った上で考えたい。だから親御さんにどうやって話を切り出そうか?という話もよく出ますね。
石嶋
何が一番不安要素になるんですか?資産運用とかって話ですか?
藤木弁護士
きょうだいは、お金の問題とその後のケアの問題に加えて、自身の進路選択や結婚とかそういった将来設計に不安を持っていることが大きいですね。
お金に関しては、きょうだいの扶養義務自体は自分の生活を犠牲にする必要はないんですが、それ自体を知らない人も多くいますね。
ケアは、実際関わっているきょうだいもいますが、親御さんが元気なうちにいろいろと聞いておきたい、福祉ともつながっておきたいけど、親御さんにどう話したらいいか・・・?というきょうだいも多いです。
やっぱり、きょうだいも「漠然とした不安」が子どもの頃からあります。自分が、進学や就職で実家を出たり、結婚とか出産したら、親と病気や障害のある兄弟姉妹はうまくやっていけるのかな?とか、結婚を考えている相手とかその親にどう説明しようかとかという部分が一番の悩みかなと思います。
石嶋
そういうのって・・・ガイドラインなんてないですもんね
藤木弁護士
ただ、最近きょうだい会で話をするのは、まずは自分の道をきちんと進んで、そこから家族のことや兄弟姉妹のことを考えようっていう方向がいいんじゃないかという話をしますね。
あとは、親御さんとちゃんとそういう話ができたらいいよねという話ですね。
とても大切なことだから、家族で話し合っていきたい。でも、自分の親といきなり話すのはハードルが高いですよね。そこで、前段階として、親御さんの会にご協力いただいて、親御さんときょうだいの座談会、交流の場を作っています。
まずは自分の親ではない親御さんと話すことで、親御さんの立場の思いや考えを知り、きょうだいも自分の本音を話せるようになってくるという感じですね。
それで、親御さんときょうだいの思いや考えのギャップはどこにあるのか、どう話せば良いのかという検証しています。
実際にそれがきっかけで親御さんと話せた、座談会に自分の親御さんと参加できたという例も多くあります。親御さんの方からきょうだいを座談会に誘ってくださる場合もありますね。
きょうだいも・・・なんというのか、なかなか誰にも相談できずに情報も少なく、兄弟姉妹を一生背負わなくてはいけない、地元を出てはいけない、結婚はできない、とひとりで考えてしまっている場合も少なくありません。そうやって自分だけで悩まないように、きょうだいの会があることを知ってほしいですね。
家族間共有がベスト?親としてできることって??
加藤さん
なんというか総じて言えるのは「とりあえず身内で話をしよう!」っていうところですね。
そもそも、夫・両親・周りのきょうだいにそういう話をする機会がないなと思って、そこを話をしてから次の心配だなと話を聞いていて感じました。
先日、先輩ママが、いざとなった時にこういうことが伝達項目として必要だよっていうメモ書きを書いているのを見て、きっとこういうことが自分たちの準備することなのかもなと感じたところです。
ただ、その家族それぞれの部分があるので、なかなか「これ」というのは難しいのかなぁと思ったりはしますね。
石嶋
そうですね。法的にどうという話ではなく、とにかく今自分たちのできる「自分たちのプラン」を組んで目標値を考えようという話でしょうね。
決して踏み込んで話をしてはダメな話題ではないので、話をみんなでするっていうのが大切なんだってことですかね。
制度自体に全てなんとかしてもらおう!とはきっと思ってないですもんね。
そういったプランを立てる場合、何に一番重きを置いて考えるべきなんでしょうか?
またそういう不安みたいなものを相談しにいく先ってあるんでしょうか?
小泉行政書士
親が亡くならずとも、ある程度の年齢になってくると段々とケアを一手に引き受けるのが大変になってくると思うんですよね。
その段階になった時に、きょうだいも含めて全て家族の誰かに任せるのも大変だから信頼できる人に任せようと思うんだけどどうかな?というような話が出てくるというのが自然なのかなと思いますね。
生きていれば、例えば施設を探すにしても親の意見も反映されても全然問題ないですし、生きているうちに成年後見人を選んでもいいので、みんなで考えることができる選択肢があるといいのかなと感じます。
そして相談先の件は、
今話をしているところの不安は、漠然とした不安感で、実はまだ不安がらなくてもいいところの不安な気がしますね。
もしするとしたら、地域の包括ケアセンターとかがそれに当たるかなぁ??おそらくご高齢者がメインになってくる気はしますが。
宮副さん
漠然とした不安という話ですが、では先輩ママさん達から成年後見とか考えとかないといけないよと言われることが結構あるんですが、それはどうしてなんでしょうか?
小泉行政書士
多分ですが、財産管理の仕方がガラッと変わるからかなと感じますね。
基本的には子供の財産を減らしておくっていうのが慣例なんですね。そうすると管理する費用も抑えられたりするので。
子どものためにコツコツ貯めていた預貯金をやめるとか、そういうことへの心配なのかなと感じますね。
石嶋
親なきあと問題にくっつけて成年後見人制度のセミナーや説明会がちょいちょい開催されていたりするんですよね。
士業向きだったりするんですけど。そういうのを見聞きして、話題だけが一人歩きしているのかもしれないですね。
正木司法書士
子どもは先が長いですからね。そういうところが心配要素なのかもしれないですね。
成年後見人は法人で受けることが可能なので、法人だと後見人自身が高齢になった場合バトンタッチをしていけるというメリットはあるのかなと思いますね。
法人だからといって値段が高くなるということはないですし。
あとは、初めの段階でご高齢の方が後見人についたとしてもバトンタッチの場合はきちんと裁判所が繋いでくれるので、一概にこれがいいですとはお勧めはできないですが、法人を選任できるのであれば信頼できる法人を選ばれるのも一つの方法かなと思います。
藤木弁護士
心配はしすぎなくていいというのは本当ですね。
きょうだいも親御さんから受ける影響が大きいので、将来への不安を払拭できるように、小さいうちから親御さんに上手に伝えてもらえるといいかなぁと感じましたね。
具体的な伝え方はきょうだい会でも考えてみたいと思います。
石嶋
漠然とした不安に対するソリューションをいくつか提案できたらいいのかなと感じました。
次回座談会では、そういった話をもう少し話せるといいかなと思います。
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