アピアランスケアとチャーミングケアを考える

アピアランスケアとチャーミングケアを考える

8月に湘南バリアフリーフェスティバルというイベントに参加させてもらった。

病気や障害のある子どもたちのショーや、物品展示などを神奈川県茅ヶ崎市の市役所ロビーを貸し切って行ったのだ。

企画や運営をしたのはASPJという脱毛症やがんの治療などで髪を失ってしまった女性たちの団体だ。

https://alopecia20.wixsite.com/alopeciastyleproject

パフォーマンスやイベントなどを中心とした活動をされており、アピアランスケアなど見た目問題の訴求を積極的に行っているASPJさんと、WEB座談会を行った。

(左から 角田真住さん,土屋光子さん,廣田純也さん)

(加藤可奈さん 通称ペコちゃん)

(清水千秋さん チャーミングケアラボフォト部(仮) 部長)

参加者紹介
チャーミングケアラボ 石嶋瑞穂マミーズアワーズショップ運営) & 岩倉絹枝コドモフクひよこ屋運営)
角田真住さん(ASPJ・多発性脱毛症) アピアランスケアを既存の福祉ではなく、ファッションやアート、エンターテイメントというような形で発信している。(合同会社Armonia代表)
土屋光子さん(ASPJ・抜毛症) 知られていない病気や症状を、アートや楽しさとして発信をしている。
廣田純也さん(ASPJ・美容師) 福祉美容として美容のできる精神ケアに興味があり、福祉分野をオシャレにかっこよく発信したいという部分に賛同してASPJとして活動中。
加藤可奈さん(患者家族)*別名ペコちゃん 現在6年生の長女が3歳の頃にすい臓がんを発病。1年間の抗がん剤治療で全身の毛が抜け落ちる経験をした。
Aさん(患者家族・看護士) 現在6年生になる息子が、4歳の時に白血病を発症。2年前に再発し、2回目の治療を経て外来治療が終了した段階。
Bさん(チャーミングケア・看護師) 看護師としては小児科4年目。
清水千秋さん(チャーミングケア・看護師) 元看護師、現在スクラップブッキング講師として病気の子どもにスクラップブッキング(スクラップブッキングはじめまして代表)を届ける活動中。

 

アピアランスケアとチャーミングケアを考える

まずは、アピアランスケアの現状について教えてください。

角田さん

アピアランスケアそのものは、とくに医療機関の中では認知されてきているように感じます。例えば、患者ファーストの病院などでは抗がん剤の副作用で髪が抜ける、爪が変色してしまうなどに対してケアをしようという動きはあります。
でも実際には看護師さんやお医者さんは、やらなきゃいけないと思っていても、そこまで手を回せないのが現状のようです。
アピアランス用のコーナーがあっても、サンプルやパンフレットが置いてあるだけで、情報提供だけという形が多いようです。

土屋さん

アピアランスケアに関しては、受け皿はあるけれどなんだかひっそりとやっているってイメージがあります。
私は、脱毛とは少しジャンルが違うので、その現場にいたわけではないんですが、あまりオープンなイメージはないですね。
病院の一室に展示があり、外見ケア用の下着やウイッグなどが並んでいると聞きました。私が患者だったらもっと違う方法がないのかなって感じます。

廣田さん

印象としては「アピアランスケア」という言葉が先行していて、具体的にどんな事ができるのか?が見えづらく、内容や手段が限られているように感じます。 ある程度、内容が具体的に確立されたら、美容師としてアピアランスケアを取り組みやすくなるのではないかと思います。

角田さん

アピアランスケアって書籍とかが結構たくさん出ているんですが、ほとんどが「医療従事者としてのケア」なんです。
廣田さんがいうような美容が与える精神への影響みたいなそう言った視点はもうちょっとあったらいいのになと感じるところではあります。

小児がんチームが今の話をどう感じたのか聞かせていただければと思います。

Aさん

外見に対して看護師として援助できてない現実があるなと感じています。実際私の職場もそんな感じですね。
つい最近あったのは、状態がすごく悪くなっているけれど、どうしてもオムツは嫌だという患者さんがいらっしゃって、トイレするたびにびしょびしょになってしまうんですね。
でも、その人の気持ちを支えてあげられるような手段がなくて・・・その人が本当に嫌がることでしかなくて。
医療従事者としてはどうしても医療優先になってしまうことが多いですね。抗がん剤をしていると髪も抜けるし爪も変色したり形も歪んでしまったりするんですが、治療中はサチュエーションが計れないという理由で、マニュキュアは外してもらわないといけなかったり。
入院することで日常がすごく変わる中で、その人らしい日常をなんとか取り戻そうとしているのに、そこに入っていけない自分みたいなところがあって日々葛藤はありますねぇ。

石嶋

私はASPJの話を聞いて正直、子どもの世界の話と全然違うなって感じました。子どもにはそういう世界観自体がほとんどないような気がして。
Aさんは、医療者として患者さんに関わりつつ、小児がんのお子さんの家族として、両方を経験されて、そういうギャップみたいな部分をどう感じられましたか?

Aさん

大人はそれまで自分が生きてきた人生とか価値観があるので、見た目がどれだけ対人関係に影響するとかもきっと知ってるだろうし、そこにこだわりたいとか意識がありますよね。だから大人の方が先に広がっているのは理解できますね。要求や希望を自分で伝えることもできますしね。
その点、子どもには見た目は二の次になるのではないでしょうか。
でも子どもって、多分そこまで言葉にできないだけで、きっとあると思います。お気に入りのパジャマや靴が着たいのに入院中はダメとか、そういうことはきっとあったんだろうなとは感じますね。
言葉でうまく伝えられない部分を大人が汲んであげて、好きなものをコソッと買ってきたりするのが私の役目だったのかなとか感じますね。
家にいるままを病院には持ってこられないけど、家で使っていた入浴剤を病院に持ち込むとかはしてたかなぁ。

石嶋

やってましたね。できることって、それぐらいですもんね。

Aさん

布団も、病院の真っ白なものじゃなくて、好きなキャラクターのものにしてあげたかったけど・・・洗濯の負担もあるし、結局病院のものになったり。
治療上で優先しないといけないって言われちゃうと、やりたくてもやりにくかったかなと感じますね。

加藤さん

私は「アピアランスケア」という言葉自体、子どもの治療中には知りませんでした。
当時、娘は七五三のために髪の毛を長く伸ばしてたんですが、抗がん剤をする時に、もうバサっとベットの上で切りました。その時点で私も子供も、言葉が悪いかもしれませんが、もう諦めがついたというか、髪がないことがダメなことでもなんでもなくて、それが日常の一部だと思うようになりました。
だからウィッグをかぶろうとかそういう気はおきなかったかなぁ。
治療中は、治療のことだけでいっぱいいっぱいだったので、外見のことまで考えられなかったのですが、退院してからも帽子もかぶらず幼稚園に行っちゃって・・・という感じで。
でも、なんやかやいうのは大人の方なんですね。子供は小さかったし、そこまで気になってない様子ではありましたね。髪の毛生えてなくても可愛いねくらいの。
これが小学生や中学生だとまた違っていたかもしれません。
私自身は、見た目に関してこだわりがなくて、その当時は髪の毛が生えていた娘に戻してあげたいという風には思いませんでした。
でも、小さい頃はそれでもよかったのかもしれないけど、小学6年生になってしゃれっ気が出てきた今の方が気にしています。薬の影響で髪の毛が薄いので、好きな子に「はげ」と言われて泣いて帰ってくるみたいなことはありますね。
小児に関しては、治療時は子どももお母さんも治療でいっぱいいっぱいだし、アピアランスケアが必要なのはそのあとかなと感じます。
でも、そのあとって、もう治療も終わっていて、周りからしたら治ってよかったね、という雰囲気で、当事者としては、まだまだよくはないぞっていうのはありますね。
でも、病気としては治療が終わっているから、それ以上どうがんばったらいいのかわからないというか。
声をあげても「いいじゃん。命が助かったんだから」って言われるのかなと感じてしまって、諦めてしまってる部分がありますね。
大人の方が圧倒的に人数が多いので、小児に比べていろんな選択肢があるじゃないですか?がんにしても脱毛症にしても。

石嶋

そうですね・・・なんだか・・・羨ましいですよね。

加藤さん

羨ましい。本当に羨ましい

石嶋

アピアランスケアや、ASPJさんの活動にしても、小児分野にはそういう概念がないんですよね。

加藤さん

私たちのように治療が終了してしまうと、小児がん分野からも外れてしまって、疎外感さえ感じます。ケアからも除外されてるような気がして、超孤独です。

石嶋

なんのフォローもないんですか?

加藤さん

ないんですよ^^;

石嶋

一番現場に近いところで小児看護をされているBさんに、今の全体の話を聞いてどう感じたのか聞いてみたいと思います。

Bさん

乳児・幼児の脱毛に関しては、本人も気にする年齢ではないので私たちも感知せずという部分はあります。
一方で思春期の小中学生の子、特に女の子に関しては、気にしているとは思うのですが、看護師としては声がかけづらく、お母さんが買ってきたバンダナや帽子をかぶったり、お母さん任せになってる部分が大きいですね。
看護師としては、なんだか申し訳ないのですが、声をかけられないというのが現実ですね。

岩倉

声をかけづらい理由はどうしてですか?

Bさん

気にしてるのがわかるからこそ、本人も話したくないのではないか、そこに触れてはいけないのではないかという気がします。
看護師は、治療に携わるだけになっています。
それから、治療中は病室から出られないこともあり、院内にウィッグの相談室があっても、そこまで連れて行ってあげることもできません。
スタッフの中で脱毛について話しあったこともありますが、いつか生えるでしょう、と思ってあまり重要視していないスタッフが多いのが現実ですね。

石嶋

Bさんにお願いして子どものアピアランスケアの学術的な論文がないか調べてもらったのですが、確固たるものがみつかりませんでした。
それもすごいですよね。
角田さんがおっしゃっていたように、大人のアピアランスケアに関してはたくさん本が出ているというのを聞いて、小児に関してはそれすらないのかと。
これはなぜでしょうか?

加藤さん

きっと、それどころじゃないからですよね。とりあえず生かすことが先決だという話ですよね。

石嶋

確かにそうかもしれませんが、ペコちゃんの娘さんのように、治療後の生活にも影響がありますよね。
「今」だけじゃなくて「後のこと」も考えてケアを考える概念があってもいいと思うのですが。

加藤さん

後のことを考えて治療する先生はまずいないんじゃないでしょうか。
病状としては見てくれます。髪が薄いなとか身長が伸びないなとか。
でもそれより、まずは再発とか命が優先ですよね。
だからこそ、アピアランス専門でやってくれる先生があればありがたいとは思います。

石嶋

清水さんは、また立場が違っていると思うんですが、今回のこの話を聞いてどう感じましたか?

清水さん

私が看護師として働いている時は、まだアピアランスケアが浸透していませんでした。今回座談会にあたって、あぁこういう話が出てきたんだなと感じました。
特に小児については、小児科の友人にも話をしましたが、やはりそういう意識はないようです。
成人分野との格差みたいなものは感じたかなぁ。
全体的にもっともっと知っていってもらいたいなと感じますね。

石嶋

おそらく清水さんは看護師さんの経験があるけれど、今は医療現場から離れていらっしゃるので、世間一般の感覚に一番近いと思います。その感覚からしても、小児のアピアランスケアという概念は必要な分野だと感じますか?

清水さん

必要だと思いますね。

石嶋

大人のアピアランスケアも必要だと思いますし、子どもにとってのチャーミングケアも発足しないといけないと感じますよね。

Aさん

子供の場合、治療優先、命優先で、おおっぴらに可愛い、かっこいい、気分の上がるものをしてあげようと思っても、「そんな場合じゃないよお母さん」みたいな雰囲気はどうしてもありますね。
それでも、少数の保護者さんは帽子につけ毛をしたり、工夫されているんですが、それを保護者がするのは大変なので、売っていればいいのになぁと思うことはありましたね。

石嶋

パジャマすら売っていませんでしたね。

加藤さん

帽子も売ってない

石嶋

売ってない。だから、帽子を手縫いで作っている人もいました。帽子を手縫いですよ・・・ありえないですよね。

岩倉

アピアランスより治療が優先というのは、ある意味理解はできます。
でも、同じ状況のなかで大人にはアピアランスが確立されつつあって、子供にはそれが降りてこないという状況がよくわからないのですが。

土屋さん

子供に関しては、別の壁があるのかなと思うんです。子供を持つ親の世界の見えない空気感みたいな。一人の子が全身仮面ライダーの服で来た場合、先生が他の子達も欲しがるから着せてこないでくださいみたいな・・・
でも子どもたち自身はそう思っていないんじゃないでしょうか。
子どもたち自身は、まだ価値観も出来上がってないから、髪が無いことも本当はある程度順応できるんじゃないかなぁ。
逆に、親って価値観が凝り固まってるから、周りと足並みを揃えなきゃいけないんじゃないか?っていう変な遠慮や情報がたくさんあって、余計にチャーミングケアの足かせになっているような気がしました。

石嶋

小児科って、患者が二人いるような感覚なんです。
子どもにももちろんケアが必要だし、親もそのケアの対象なんですよね。
そこで、子ども=親だと思いがちなんですが、それは実は違っていて・・・子どもは求めてるけど、親が求めてない、という場合やその逆ももちろんあります。
こんなもん暑いからいらないって言ってウィッグをポーイって投げちゃう子もいる。でも親は、女の子だし被っとこうよという人もいる。だからちょっとややこしい気はしますね。
医療従事者さんもそういう空気感がわかるから、必要そうだけど、なかなか手をつけられないというのを、チャーミングケアの活動の中で感じますね。

加藤さん

やるのもやらないのも、選択できたらいいと思うのですが、今は選択ができないですよね。道が1本しかない。
選択肢があった上で、私はこうなのでこっちにします、という選択肢を増やしたいねってすごく思います。
例えば、我が家は髪がなくなることにそんなに悲観的ではありませんでしたが、それしか選択肢がなかったからということもあります。この治療をしたらそういう風になるもんですよという前提で、おしゃれする必要ないよねっていう暗黙の了解がありました。
そういう状況だと、なんというか、偽ポジティブみたいな感じにはなります。選べたらいいのになぁ・・・本当に。

石嶋

病院の看護師さんレベルで「こういう選択肢があるよ」と、紹介してくれることはありますか?

Bさん

小児に関しては、ないですね。
大人の分野の時は、紹介するという意識はありましたが、小児に来てからはそういうことはないですね。正直、そういった知識自体ないかもしれない。

石嶋

情報共有しようという土壌がないのでしょうか?例えば、女の子が治療で髪が無くなってしまう、それに対してウィッグや帽子の情報を提供するなど。

Bさん

ないかなぁ・・・
あとは、お母さんがいるから、子どもよりもお母さんに話さないと、という意識はありますね。
結局お金もかかる話だし、患者である本人に先に知恵をつけてしまってもなぁと考えます。

石嶋

実は、Bさんは弟さんを小児がんで亡くされています。ですから、こういった状況もより身近なところで感じていらっしゃる部分があるかと思います。
そんなBさんからしても、現実的な環境はなんとも切ない状況なんですよね。

Aさん

子どもはやっぱり親を通して動くという気はしています。
意思がはっきりしている子もいるとは思いますが、やっぱり親や医師の意見の方が大きいという気はします。
実際、うちの子の場合は、男の子だからか、親の思いとは裏腹に、本人はなんとも思ってない感じで、髪の毛めっちゃに抜ける!すごい!みたいなこともありましたね。
本当のところはよくわからないけど・・・実は一番気にしていたのは親の私だったんじゃないかと思うこともあります。

石嶋

うちは髪の毛抜けようが顔がむくもうが、病院にいるときは慣れればそれほど気にしていませんでした。
でも、一度家に帰ったらね、ちょっと状況が違いました。
病院では同じような外見の子がたくさんいるから、そういう状況に慣れていたけれど、日常生活に戻るとそうではないですよね。
結局うちは学校に通いませんでした。
治療や体力的な問題もありましたが、本人が通いたくないという感じでした。
学校の先生がよくしてくれて、周りのお友達の理解は割とある方だったと思いますが、それでも、ちょっと嫌だなというのがあって、そこは無理することないからと、院内学級の管轄の支援学校から出張で学習支援をしてもらっていました。
その時に、病院で一緒に過ごしていたお友達を「みんなどうしてるかなぁ」って言っていました。
同じ境遇というか、共有できるところを求めているというか・・・
学校では自分だけだから、その見た目で過ごさないといけないのが。

Aさん

うちはどちらかというと、自分の置かれている状況を受け入れてはいたような気はしました。
帽子はかぶっていってたけど、暑いからって脱いじゃったり。
もしかしたら、何か思ってたのかもしれないけど、言葉にはしないから・・・
遠足前の時に、髪がバラバラっと抜けて、その時はさすがに「写真に残るのになぁ」と言っていたから、現実が形として残るのは嫌なのかなとはその時思ったかなぁ。

角田さん

命のやり取りの中では、髪の毛抜けても仕方がないとは思うんですね。
だけど、それが日常に戻るまでの間というのはグラデーションであるわけで、そこをきちんとケアしてあげることが必要ですよね。
その概念は、成人女性には徐々にできつつありますが、子どもに関してはこれからなのかなぁって感じました。
子どもはすごく純粋だから、治療中も目の前の社会だけを見て完結をしているところがあります。だけど状況が変わって学校に行くとなると、また気持ちも変化する。
お話を聞いていて、そういうところに寄り添ったケアができていけるといいなぁと思いました。

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