2025年度から、扶養する子どもが3人以上いる多子世帯の学生について、所得制限なく、国が定める上限額まで大学等の授業料・入学金を減免する支援が始まっている。
いわゆる「多子世帯の大学無償化」と呼ばれる制度だが、すべての学費が無条件で無料になるわけではない。扶養状況や資産、学業などの要件があり、対象校や減免額、手続きの時期も確認が必要だ。
そして制度を利用するための入口は、「奨学金」の案内の中にある。筆者自身、2027年春に大学へ進学する子どもを持つ保護者として、その分かりにくさを経験した。
「大学無償化」はJASSOと大学が分担する制度
「多子世帯の大学無償化」は、正式には国の「高等教育の修学支援新制度」の一部である。2019年に成立した「大学等における修学の支援に関する法律」に基づいて2020年度に始まり、2025年度から多子世帯への授業料・入学金減免が拡充された。
制度は、日本学生支援機構(JASSO)が学生に給付型奨学金を支給する仕組みと、進学先の大学等が授業料・入学金を減免する仕組みの二本立てである。JASSOは国から単純に業務を受託している民間事業者ではなく、法律に基づいて国の奨学金事業を実施する独立行政法人である。授業料等減免そのものは大学等が行い、必要な費用を国や地方公共団体が補助する。
両者は別の仕組みだが、世帯の所得、扶養する子どもの数、資産など、支援対象者の判定に必要な情報を二重に提出・審査しないよう、JASSOの判定結果が大学等へ連携される。そのため、多子世帯で給付奨学金の支給額が0円となり、授業料等減免だけを希望する場合でも、まずJASSOの給付奨学金へ申し込む流れになっている。
JASSOと大学等が役割を分担し、授業料等減免だけを希望する人も給付奨学金へ申し込むという構造を、一般の高校生や保護者があらかじめ知っているとは考えにくい。むしろ、その仕組みを知らない家庭に「日本学生支援機構奨学金(予約採用)」とだけ案内しても、授業料等減免の手続きだとは伝わりにくい。今回の問題は、制度利用に不可欠な前提が学校からの案内文に書かれていなかった点にある。
4月から繰り返し届いていた「奨学金」の案内
子どもが通うのは通信制高校である。学校生活や学習だけでなく、進学や各種手続きに関する連絡も、基本的にはメールや専用システム上のお知らせを通じて行われる。
通信制高校では、進学や各種手続きに関する情報が、メールや専用システム上の案内を通じて届く。日常的な対面での補足説明を前提にしにくい環境では、案内文面が保護者にとって事実上の主な情報源になることは想像に難くない。
筆者のもとには、2026年4月以降、複数回にわたって「日本学生支援機構奨学金(予約採用)」の案内が届いていた。資料請求の方法や申請期限、手続きの流れは記載されていたが、少なくとも「高等教育の修学支援新制度」「多子世帯」「授業料等減免」「入学金減免」といった言葉は見当たらなかった。

筆者は当時、「奨学金を借りる予定はないので、わが家には関係のない案内だ」と受け止め、申請しなかった。ところが、子どもの大学合格後に多子世帯の授業料等減免を確認したところ、この予約採用の申し込みが制度利用の入口になることを知った。
「奨学金を借りない家庭」にも必要な給付奨学金の申請
日本学生支援機構(JASSO)は、進学前に申し込む予約採用について、多子世帯向けを含む授業料等減免を希望する場合も、給付奨学金へ申し込むよう案内している。
給付奨学金は返済が必要な貸与型奨学金とは異なる。ただし、所得区分によって給付奨学金の支給額が0円となる家庭でも、多子世帯と判定されれば授業料等減免だけを受けられる場合がある。この仕組みを知らなければ、「奨学金は借りない」という判断から申請案内を読み飛ばしかねない。
多子世帯の判定は、学生本人を含め、税情報上で扶養されている子どもが3人以上いるかなどをもとに行われる。所得制限はないが、資産要件や学業要件があり、大学・短期大学・高等専門学校・専門学校のうち、国の確認を受けた学校が対象となる。
約78万円を一度支払い、還付は2027年10月頃の見込み
予約採用を利用しなかった場合でも、進学後に「在学採用」として申し込む方法がある。筆者が進学予定の大学へ確認したところ、入学時にはいったん学費を支払い、2027年春に手続きを行った後、減免分の還付は2027年10月頃になるとの説明を受けた。
すでに入学手続きとして支払った金額は約78万円である。多子世帯では複数の子どもの教育費が同時にかかり、進学時には教材、パソコン、通学、住居などの支出も集中する。後から還付されるとしても、半年近く使えない資金が生じる影響は小さくない。
ただし、予約採用の候補者になれば、どの大学でも入学時の支払いが自動的に不要になるわけではない。JASSOの支援は進学後、大学で所定の手続きを行ってから始まり、納付猶予や還付の方法・時期は大学によって異なることは確認していただきたい。
「奨学金」の案内だけでは、多子世帯支援にたどり着けない
今回、学校から案内が届いていなかったわけではない。「日本学生支援機構奨学金(予約採用)」の案内は、繰り返し届いていた。
しかし、その案内には、多子世帯の授業料・入学金減免を希望する場合も給付奨学金への申し込みが必要であることが書かれていなかった。
「奨学金を借りる予定はない」と考えている家庭が、この案内だけを見て、多子世帯支援の申請につながるものだと理解するのは難しい。
仮に「多子世帯の授業料・入学金減免を希望する方も、給付奨学金への申し込みが必要です」と明記されていれば、少なくとも対象となる家庭が、自分に関係する情報として確認するための入口にはなったはずだ。
文部科学省も「制度を知らない」ことを課題に
文部科学省は2026年5月、修学支援新制度について中学校や高校などへ出した通知で、2025年度には約71万人が支援を利用した一方、対象となり得るにもかかわらず利用していない人が一定数いる状況にあるとした。制度を知らないことが一因と考えられるとして、丁寧かつ積極的な周知を求めている。
2025年度の制度拡充により、これまで所得の面で奨学金の対象にならなかった家庭や、奨学金を利用するつもりがなかった家庭も、多子世帯支援の対象になり得るようになった。だからこそ、従来の「奨学金」という言葉だけで案内することには限界がある。
2027年春に進学する多子世帯が確認したいこと
- 奨学金を借りる予定がなくても、JASSOの給付奨学金に申し込む必要があるか
- 高校を通じた予約採用の申請期限と、進学後の在学採用の時期
- 進学先での入学金・授業料の納付猶予、減免、還付の方法と時期
- 扶養状況、資産、学業、対象校などの要件を満たすか
文部科学省は、入学金減免の申請について、入学後3か月を超えると受け付けられないと案内している。予約採用を逃した場合も、在学採用の期限を進学先へ早めに確認しておきたい。
支援制度は「ある」だけでは届かない
子どもの進学を支援する制度は、制度を作るだけでは利用につながらない。誰が対象なのか、どの手続きが必要なのか、いつまでに動かなければならないのか。それが制度を知らない人にも分かる言葉で届いて初めて、支援として機能する。
病気や障害のある子どもの家庭では、治療や生活上の負担に加え、きょうだいを含めた教育費が同じ時期に重なることもある。多子世帯の授業料等減免は、そうした家庭にとっても大きな支えとなり得る。
今回のケースが示しているのは、制度を知らなかった一家庭だけの問題ではない。必要な人が「これは自分に関係する制度だ」と気づけるところまで含めて、情報提供なのではないだろうか。
※多子世帯の判定条件、資産・学業要件、対象校、実際の減免額、申請や納付の方法は個別に異なる。最新情報は文部科学省、日本学生支援機構(JASSO)、在籍する高校、進学先の大学等で確認してほしい。
参考
- 高等教育の修学支援新制度(文部科学省)
- 大学生等の皆さんへ(文部科学省)
- 進学前に申し込む(予約採用)(日本学生支援機構)
- 多子世帯の大学等の授業料等無償化について(日本学生支援機構)
- 2027年度進学予定者向け 給付・貸与奨学金早わかりガイド(日本学生支援機構)
- 高等教育の修学支援新制度の周知について(依頼)(文部科学省)
