子どものアピアランスケアについて考える【松本公一先生×石嶋壮真氏 対談】

子どものアピアランスケアについて考える【松本公一先生×石嶋壮真氏 対談】

〜子どものアピアランスケアについて考える〜

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 松本公一先生
一般社団法人チャーミングケア 子ども講師 石嶋壮真氏

松本公一先生は、国立成育医療研究センターに勤務する小児科医として、日々多くの小児がん患者さんたちの診療に携わっています。
「小児がんの子どもたちを社会全体で支える体制が必要だ」と話す松本先生は、子どものアピアランスケアについても重要視されています。
今回は松本先生に「子どものアピアランスケアについて考える」をテーマとして、小児がんサバイバーであるチャーミングケア子ども講師の石嶋壮真氏と対談していただきました。

 
ーぼくが急性リンパ性小児白血病で入院したのは2016年でした。その頃と現在を比べて、治療法に変化はあるでしょうか?

2016年頃と比べると、治療法はそれほど大きく変わっていないと思います。ただ「できる限り少ない治療で最大の効果を得る」ということを私たちは常に考えているので、ここ数十年でいえば随分と治療の方法は変わってきましたね。
急性リンパ性小児白血病であれば、昔は放射線治療をするのが当たり前でしたが、今はあまり選択されません。
治療期間についても、壮真さんが入院していた頃と同じように8ヶ月〜1年くらい入院したあと、さらに1年ほど外来治療に通ってもらう必要がありますね。

 
ー松本先生が考える、小児がん治療の課題はなんでしょうか?

小児がんは、リスクが低いものであれば8〜9割程度治るようになりました。しかし、2割の子どもたちは病気が治っていないということを忘れてはいけません。
小児科医たちはすべての小児がんを治すために尽力していますが、ここで問題になるのが治療に伴う合併症です。

強い作用のある治療薬を使うと、「晩期合併症」といって、治療の数ヶ月後からさまざまな合併症が起こることがあります。病気が治る8割の子どもたちのうち、4割の人は晩期合併症に悩んでいると言われているんです。
「心臓の機能に影響が出る」「背が伸びにくい」など、晩期合併症の症状は人によってさまざまです。
すべての子どもたちの命を救うことはもちろん、治療による合併症をいかに少なくできるかが今後の課題だと考えています。

 
ー子どものアピアランスケアについてはどう考えていますか?

正直なところ、アピアランスケアについては知らないことも多かったんです。はじめは「アピアランスケア=頭髪の問題」というイメージがありましたね。
しかし実際には、治療に使うステロイドによって顔がかなり丸くなってしまうなど、外見にまつわるさまざまな問題があります。壮真さんたちのお話を聞いて、CVカテーテルのカバーを工夫することもアピアランスケアの一環だと学びました。
私たちは、できるだけ少ない薬で100%の人を治したいと考えていますが、それは副作用が起こるリスクを減らせるからです。副作用が減らせれば、外見の変化に関する悩みも少なくなるはず。
できるだけ多くの子どもたちが、健やかに成長していけるような治療を、これからも提供し続けていきたいです。

 
ーぼくはカテーテルを挿入していた部分の傷跡が気になっていて…見えない部分ではありますが、いつ傷跡がきれいになるのか気になっています。治療していた当時は、顔のむくみと脱毛をすごく気にしていました。

私の担当患者さんに、小児がんで腫瘍の摘出術を受けたお子さんがいました。修学旅行に行くまでは、みんなにも自分と同じような手術痕があると思っていたそうで「みんなには傷跡がないと知って愕然とした」と話してくれました。
どんなに小さな傷でも、子どもにとってはすごく大きな外見の変化なんですよね。

 
ーぼくと一緒に子ども講師を担当している女の子は、歯のことについて悩んでいました。相談してもわかってもらえないと思って「諦めている」と言っていましたね。

小児がんといえば昔は不治の病だったので、「命が助かったんだから外見の変化については我慢しよう」という風潮があったかもしれませんね。
しかし、新しい治療法が確立されて救命率が高まった現在は、QOLの高い治療をすることが小児科医の使命になっています。
近年は分子標的薬(※)が使えるようになってきたので、永久歯が大きく育たないといった歯の問題も、少しずつ解決してくることを期待したいです。
(※)分子標的薬:病気の原因に関わる、特定の分子だけを選んで攻撃することができる薬剤のこと。正常な細胞へのダメージを軽減できるため、従来の抗がん剤に比べて副作用を抑えられる可能性がある。

 
対談に同席していたチャーミングケア代表の石嶋瑞穂からも、松本先生にいくつか質問させていただきました。

 
ー(代表石嶋)小児がんの子どもが外見の変化について相談したいとき、どこに支援を求めるのが良いのでしょうか?

きっかけは主治医や看護師でも良いのですが、小児がん相談員を活用するのも良いと思います。相談員になるために必要な教育を受けた人たちなので、まずは小児がん相談員に話を聞いてもらい、そこから必要な支援が受けられるよう調整してもらうのがスムーズかもしれませんね。

 
ー(代表石嶋)子どものアピアランスケアについて、日本ではあまり重要視されていないと感じるのですが、松本先生はどう思われますか?

「がん対策推進基本計画」の中にアピアランスケアという言葉が出てきたのは最近のことなので、日本のアピアランスケアはこれから支援体制が充実していくといった段階でしょう。
アピアランスケアへの機運が高まっていることは確かですが、子どもへのアピアランスケアということについては、まだ意識されていないのではないかと感じます。
大人と子どもでは感受性が全く違いますし、ナイーブな子どもたちには大人とは違うアピアランスケアが必要だと考えます。そして医療分野だけの問題ではなく、社会全体で取り組むべき問題として扱わなくてはなりません。
大人目線ではなく、子ども自身が望む支援を受けられるよう、これからも問題提起していかなくてはなりませんね。

対談者プロフィール

松本 公一(まつもと きみかず)先生
名古屋大学医学部卒業。日本小児科学会専門医、日本小児血液・がん学会暫定指導医、日本造血細胞移植学会認定医。国立成育医療研究センターに勤務し、小児がんセンターセンター長と、小児がんセンター長期フォローアップ科診療部長を併任。小児血液・腫瘍学を専門とし、小児がん治療の第一線で活躍している。

石嶋 壮真(いしじま そうま)
小児がんサバイバー、一般社団法人チャーミングケア子ども講師。小学2年生のときに急性リンパ性小児白血病と診断され、治療に伴う脱毛や浮腫といった外見の変化に悩む。自身の経験をもとに、現在はチャーミングケア研修の子ども講師として活動中。メタバースを活用した、病児・障害児の居場所作りにも奮闘している。

 

【対談内容ピックアップ】
チャーミングケアでは「子どものアピアランスケアについて考える」をテーマに、小児科医の松本公一先生と対談させていただきました。
「すべての小児がん患児の命を救うことはもちろん、治療に伴う副作用をいかに少なくするかが課題だ」と話す松本先生。子どものアピアランスケアについては、医療分野だけではなく、社会全体の問題として取り組まなければならないと捉えています。
松本先生とは「大人目線ではなく、子ども自身が望む支援体制づくりが必要だ」という認識を共有し、今後は子どものアピアランスケアについての実態調査を協働で実施していきます。
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