メディカルソーシャルワーカーからみる復学支援の重要性

メディカルソーシャルワーカーからみる復学支援の重要性

チャーミングケアでは、病気や障害のある子どもと保護者に対する支援として他職種の役割にスポットをあて、それぞれがどんな 役割をしているのかをこれまで様々な職種のエキスパートの方にリレーインタビューで伺っています。

今回はメディカルソーシャルワーカーの役割や、ソーシャルワーカーとしての関わり方やケアなどについて大阪大学医学部附属病院MSWとして勤務。現在は摂津市にある社会福祉法人桃林会「相談支援事業遊育園」の相談支援専門員として病院から退院してきたこどもたちの在宅ケア(在宅サービス等も導入)と環境整備などを行っている松尾怜奈さんにお話しを伺いました。

 

小児病棟に入院している子どもないし保護者への相談対応として、どんなものがあるのでしょうか?

一番は急性期治療を乗り越えてきた方っていうのは、入院前の体の状況と退院するときの状況が違っていたりする場合が多いです。
例えば、医療的ケアが増えてお家に帰られる方へのフォローなどがあげられます。

入院前のボディイメージで子どもさんが生活してきたことが大きく変わってしまうので、在宅環境の整え方であったり、家族が医療的ケアをしなければならないのであれば看護師からの指導をして訪問看護師さんの手配であったりとかがメディカルソーシャルワーカーの役割です。
入院が長期化すると当院の小児医療センターは家族の付き添いを必要とする病棟のため、家族が抱える不安感を聞き、必要な情報提供を行ったり、保険適用以外の部分で何かとお金がかかってきたりしますので、公的な助成や手当などのご案内なども私たちがお手伝いすることが多いです。

 

退院時のフォローとしてはどんなものがありますか?

病院によって様々だとは思いますが、わたしの所属していた病院では退院カンファというものを行います。
お子さんとご家族さんを中心に考えて、主治医やプライマリー担当、復学する学校の担任の先生や管理職の方、保健の先生にも病院に来ていただいてみんなで会議をします。
もちろんメディカルソーシャルワーカーも参加します。
そこで、これまでの治療経過と現在の病状、退院後の学校生活場面で医療上留意する点などを共有します。
例えば小児がんなどの場合、髪が抜けていたり、浮腫があったとしても、医療的ケアがある状況でないため、学校の先生は何に気を付けたらいいのか判断できないことも多いと思います。学校への登校のタイミングに関しても外来で主治医が免疫状態が改善しているかどうかで登校のタイミングを判断しています。

登校がOKとなっても免疫が完全に回復している状況ではないため(一般的に目に見えて管理できるものではないので)、学校側も対応面に困惑されると思います。極端な話、家族や本人の衛生観念に帰属している話じゃないかと思ったりもするわけです。
そこを医療者側からの感染管理の注意点として申し送りをしたりすると、学校側の受け取り方が違うかなとは感じます。

 

退院後のフォローはどんなものがありますか?

基本的には医療的ケアがない場合は、主治医からのオーダーがあったり、ご本人(ご家族さん)から申し出がない限りはMSWとして介入を継続することができないのが現状です。
主治医からの相談として、学校に不登校になってしまって悩んでいるようだから相談に乗ってくれないかというような話はたまにありますが、退院後の治療経過で面接をするのでピンポイントになってしまって、介入が難しいというのがあります。

また、メディカルソーシャルワーカーは「病院側の人」というイメージがあるので、「学校側で起きたこと」を相談するということにハードルがあるように感じます。
何か良い社会資源はないですか?と言われたりもするんですが、不登校などの問題の場合、とりあえず学校に行けるようになったらゴールというわけではなく、様々な中長期的なフォローが必要だったりします。なんらかの情報提供をしたから解決するというものでもなく、個別ケースでその家族にあった支援体制を地域のコミュニティなどと連携し、構築していく必要があると思います。

 

復学支援のあり方についてどう思われますか?

小児がんに限っていうと、年間発症数が少なく、退院時に医療的ケアがない状態で日常に戻って行かれる方が多い傾向があるので、MSWとしての介入は前例対応している訳ではありません。
もちろん、治療による外見の変化に関してのケアはあるとは思いますが、医療的な治療をするわけではないので、症例によっては介入できていないため、ご家族任せになっているかなと感じます。

あとは、ご家族のケアに関しても復学支援の一つなのかなと思います。
やっと当事者のお子さんが退院したけれど、復学のサポートで奔走したり、きょうだいさんがいるご家庭だと、そちらのサポートもしないといけない。
おそらくその部分のサポートに関して、何か活用可能な社会資源というのはないように思います。
家族会やピアサポートもあったりはしますが、ご家族のマンパワーだけでどうにかしている印象が強いですね。
学習の遅れや、運動制限、学校での人間関係、外見の変化に対するケアなど、短期的なサポートだけで円滑に進むものでもないので、ご家族やご本人だけのマンパワーだけでは限界があるのかなと思います。

学校に戻るタイミングだけでなく、中長期で支援が必要だと感じますが、そのためのサポート環境が整っていないのが現状なのかなと感じます。

 

これからの目標について教えてください

大学病院のメディカルソーシャルワーカーとして12年従事してみて、医療と福祉の乖離について感じることが多々ありました。
そして大学病院だと、特に病弱児のお子さんだと元気になっていくほどに距離ができるというか、通院頻度が少なくなっていくので、中長期的なフォローが難しい部分がありました。

そこで2024年4月から遊育園こどもクリニックにてクリニックと相談支援事業所が一つの法人で事業を行う試みを始動しています。
クリニックに相談事業所が併設しているところは、全国的にも珍しく、大学病院とは違ってもう少しお子さんやご家族と近い距離で、様々な相談に対応していきたいなと考えています。

また個人的には*ACP(アドバンス・ケア・プランニング)に力を入れていきたいなと考えています。
コロナ禍に、お子さんの最期の時を病院じゃなくてお家でみんな揃って見送ったという報告を想像以上に受けて、家族のあり方に変化を感じました。

コロナ禍では入院している患者さまへの面会制限も厳しく、なかなか家族以外の親族に会う機会や外出・外泊に出る機会がありませんでした。
だからこそ、大好きな家族の中で、美味しいものを食べて、好きなゲームができて、会いたい人に会えるという環境を作るということの大切さを感じました。
そこでACPの重要性を感じ、在宅支援も含めたその子やご家族にとって何が大切で心地よいかということを考えながらサポートができたらと考えています。

*ACP(Advance Care Planning)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組みのこと
引用:日本医師会HPより

インタビュイー プロフィール
松尾怜奈
社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士、公認心理師。
関西学院大学卒業。障害者相談員として従事。その後、龍谷大学大学院文学研究科教育学専攻臨床心理学領域を修了、大阪大学医学部附属病院MSWとして勤務。現在は摂津市にある社会福祉法人桃林会「相談支援事業遊育園」の相談支援専門員として病院から退院してきたこどもたちの在宅ケア(在宅サービス等も導入)と環境整備などを行っている。

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