行政・教育・医療で考える復学支援
2026年8月20日、徳島県小児慢性特定疾病児童等自立支援事業研修会として、「病弱児・小児慢性支援モデルを考える アピアランスケア調査から見えた課題・病弱児の復学を支える多職種連携と制度活用」をテーマに研修会を開催しました。
研修会は徳島県主催で、徳島県職員会館の会場参加とZoomによるオンライン参加を併用して実施しました。教育関係者、自立支援員、医療関係者、自治体職員の皆様にご参加いただきました。ご参加くださった皆様と、企画・運営にご尽力くださった徳島県保健福祉部健康寿命推進課の皆様に、あらためて御礼申し上げます。

研修会の背景と目的
チャーミングケアは、病気や障害のある子どもと家族を対象に、アピアランスケア支援事業の実態調査、復学支援に関する調査・検証、メタバースを活用したコミュニケーション伴走、Qケアの開発などに取り組んできました。こうした実践から得た知見を、地域の支援体制のなかでどのように活用できるかが、今回の研修の出発点です。
復学や生活支援を位置づけ得る主要な公的枠組みの一つに、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業があります。相談支援は必須事業として広く実施されている一方、実態把握、療養生活、相互交流、就職、介護者支援等は努力義務事業であり、地域によって実施状況に差があります。
当日資料で紹介した令和6年度調査では、相談支援事業の実施率が97%、自立支援員による支援が98%でした。努力義務事業は、実態把握事業64%、相互交流支援事業53%、その他自立支援事業30%、就職支援事業15%、療養生活支援事業12%、介護者支援事業11%でした。相談支援に比べ、生活や就労等に関わる事業は実施率が低い状況です。

出典 PwCコンサルティング 令和6年度小児慢性特定疾病児童等自立支援事業取組事例集
2025年3月 137団体対象
復学期にある支援ニーズ
小児アピアランスケア意識調査の自由記述では、支援ニーズが退院後や在宅での生活、学校への復学といった移行期に多く見られました。通常の学級に復学する子どもや、障害福祉制度の対象にならない子どももいます。そのため、学習面だけでなく、体調、学校との関係、周囲とのコミュニケーションを含めた個別の調整が必要になる場合があります。

当事者にとって必要な支援であっても、既存制度の事業名や調査項目では捉えにくい領域があります。研修会では、このような支援を地域の仕組みに位置づけ、継続して提供できる形に整えるための論点を共有しました。
支援を事業として組み立てる際の留意点
個別性の高い支援を外部の専門団体等と連携して実施する場合、委託や再委託の段階ごとに、事業管理や関係者間の調整に必要な費用が生じます。契約の組み方によっては、子どもや家族への直接支援に充てられる予算の比重が小さくなることもあります。専門性を確保しながら、現場の人件費と継続的な支援時間を十分に確保できる事業設計が重要です。

図 支援が現場に届くまでの流れ 概念図
行政 教育 医療の目線を合わせる
復学支援を組み立てる際、行政、教育、医療はそれぞれ異なる制度と語彙を参照しています。行政は小児慢性特定疾病児童等自立支援事業などの制度を軸に考え、教育現場は復学支援、病弱児支援、特別支援教育の枠組みに沿って動きます。医療現場は地域移行、在宅ケア、長期フォローアップなどの観点から支援を考えます。

目的が重なる一方で、参照する仕組みや言葉が異なるため、支援内容や役割分担が伝わりにくくなることがあります。研修会では、まずこの違いを可視化し、関係者が同じ子どもの状況を共有することの大切さを確認しました。
ユニバーサル支援基盤と上乗せ支援
研修会では、病弱児支援を小児慢性特定疾病児童等自立支援事業だけに閉じず、二つの層で考える支援モデルを提案しました。

・第一層 ユニバーサル支援基盤 学校や地域の通常の取組のなかで、病弱児全般が利用できる支援基盤を整えます。
・第二層 上乗せ支援 小児慢性特定疾病児童等には、個別の必要性に応じた支援を基盤の上に組み合わせます。
指定疾病の有無だけで支援を分けるのではなく、困りごとを抱える子どもが地域の支援につながりやすい基盤を整え、その上で専門的・個別的な支援を加える考え方です。
研修会で共有した支援の方向性

・医療 相談支援機能を整理し、学校との連携を担当者個人の善意に依存させず、組織の業務として位置づけること。医療、教育、福祉による共同カンファレンスや報告の仕組みを検討すること。
・教育 病弱児支援を含む特別支援の枠組みを整理し、生活や進路も含めて継続的に支える役割を検討すること。オンライン授業の質を高め、既存業務のなかに支援を組み込むこと。
・上乗せ支援 病気を経験した子どもの探究学習やピアサポート、訪問型学習への伴走、将来の自立や就労を見据えた継続的な支援を検討すること。
愛媛県、岡山県、京都府の事例も紹介し、医療機関を中核とする体制、専門性を持つ人材、オンライン学習の運営、継続的な財源など、他地域で応用する際に確認すべき条件を整理しました。
Qケアbaseを用いたワークショップ
研修会の後半では、チャーミングケアが開発したQケアbaseを体験していただきました。Qケアbaseは、気持ち、状態、認知を、こころ、からだ、家庭、環境の4領域で記録し、自己表現とコミュニケーションを助けるツールです。優劣を測る評価ではなく、その時点の自分の状態と変化を記録することを目的としています。

参加者には「徳島研修」というイベント名で、参加前と参加後の2回、喜び、悲しみ、怒り、不安・恐れ、やすらぎの感情カラーを使って記録していただきました。同じ研修を受けても、感じ方や気づきは一人ひとり異なります。参加前後の記録を比べることで、自分の変化を振り返る体験となりました。
Qケアは、支援を行う側だけでなく、支援を受ける子ども自身が気持ちや体調を伝える場面での活用も想定しています。言葉にしにくい状態をタグと色で表すことで、子どもと周囲の人との対話のきっかけをつくります。
徳島県での研修会の位置づけ
研修資料では、徳島県が、がん支援を包括的に進める方針を持つ一方、県内の小児がんや病弱児支援に関する知見を、関係機関で共有し継続的に活用できる形に整理することが課題として示されました。小児慢性特定疾病児童等自立支援事業だけで病弱児支援全体を担うのではなく、教育、医療、行政がそれぞれの既存の仕組みを持ち寄ることが必要です。
今回提案した二層構造は、学校や地域で取り組める支援を基盤として整え、必要に応じて専門的な支援を加える考え方です。制度と現場の間にある課題を一度に解決するものではありませんが、関係者が具体的な支援内容と役割分担を検討するための共通の土台となります。
今後に向けて
研修会で実施したアンケートへの回答は、個人や所属が特定されない形で整理し、チャーミングケアの今後の活動と、文部科学省、厚生労働省、こども家庭庁への政策提言・情報提供の基礎資料として活用します。調査や実践から得られた知見を、行政、教育、医療の各現場で検討できる形にして共有していきます。
あらためて、研修会にご参加くださった皆様と、企画・運営にあたられた徳島県保健福祉部健康寿命推進課の皆様に、心より御礼申し上げます。
関連するチャーミングケアの取組
・全国の自治体を対象としたアピアランスケア支援事業の実態調査
・小児アピアランスケア意識調査
・メタバースを活用したコミュニケーション伴走支援
・日本小児保健協会の学会誌に掲載された復学支援に関する論文
・Qケアを活用した学びと実践のプログラム


