髪を切る。
多くの人にとっては日常的なことですが、人工呼吸器を使い、ベッド上で過ごすことの多い子どもと家族にとっては、いくつもの準備が必要です。
美容室まで移動することが難しい。訪問美容を毎回頼むのも簡単ではない。こうした事情から、家庭で保護者が髪を切ることもあります。
チャーミングケアでは2023年、美容師に協力を依頼し、人工呼吸器を使う子どもの髪をベッドの上で切る様子を撮影しました。約2分半にまとめた動画は、公開から時間がたった現在も視聴され続け、再生回数は1.2万回を超えています。
それだけ、具体的な方法を知りたい人がいるということなのかもしれません。
今回は動画の内容から、家庭でのヘアカットを考えるときに参考になる準備や工夫をあらためて紹介します。
髪型を決めるときは、日々のケアも一緒に考える
動画で最初に確認しているのは、どのような髪型にするかです。
今回のお子さんは髪の量が多く、後頭部を洗ったり乾かしたりする際の負担を減らしたいという希望がありました。一方で、頭頂部の髪は残し、自然に立ち上がるような髪型にしたいという希望もあります。
そこで、側頭部と後頭部を短くし、頭頂部を残すツーブロックにしました。
髪型を考えるときには、見た目の好みだけでなく、洗いやすさや乾かしやすさ、枕に接する部分の蒸れやすさなども大切な要素になります。
「似合う髪型」と「日々ケアしやすい髪型」は、別々のものではありません。
ベッド上のヘアカットで用意したもの
動画では、次のような道具を使用しました。
- はさみ、すきばさみ
- 大小2種類のバリカン
- フェイスシェーバー
- 髪を湿らせるスプレーとぬれタオル
- 顔に切った髪が落ちるのを防ぐフェイスガード
- 撥水性のあるナイロン製のカットクロス
- 細かな髪を吸い取るハンディークリーナー
- 使用後のカットクロスを入れるビニール袋
- 仕上げ用のヘアジェル
顔の上に置いたフェイスガードは、お子さんが普段使っているものを使用しています。適度な硬さのあるクリアファイルや、耳にかける市販のフェイスガードを利用する方法も紹介されています。
カットクロスは、身体の下と上の両方に敷きました。衣服や寝具の中へ細かな髪が入り込むのを防ぎ、片付けやすくするためです。
動画では3ミリと2ミリのバリカンを使い分けていますが、これは今回の髪型に合わせた一例です。
頭を持ち上げず、身体の向きを変えながら切る
最初に、ぬれタオルで髪全体を湿らせます。
仰向けの状態で顔の横からカットを始め、側頭部は大きなバリカン、耳の周囲や生え際などの細かな部分は小さなバリカンを使って整えました。頭頂部は、はさみとすきばさみで全体のバランスを見ながら切っていきます。
ベッド上で難しいのが、後頭部のカットです。
人工呼吸器を使っている子どもの場合、頭だけを持ち上げた状態を続けることが難しいことがあります。動画では、背中側にクッションを入れ、身体ごと横向きにして後頭部を切りました。反対側を切るときには、クッションの位置を入れ替えて身体の向きを変えています。
耳の後ろは、耳たぶを持ち上げながら輪郭に沿ってバリカンを当てます。襟足は大きなバリカンで下から上へ刈り、生え際は小さなバリカンで仕上げました。
美容師だけで進めるのではなく、普段の体位変換や人工呼吸器の扱いを把握している保護者と一緒に行っていることも、動画の大切なポイントです。
切る技術だけでなく、片付けやすさも大切
家庭でのヘアカットでは、切った後の細かな髪も悩みになります。
動画では、カット中にもハンディークリーナーで髪を吸い取っています。終了後は、髪が周囲に落ちないよう、カットクロスごとビニール袋へ入れて片付けました。
身体の下にもクロスを敷いておくことで、寝具に残る髪を減らすことができます。
髪を切る時間だけでなく、準備や片付けまで含めて負担を減らす。この工夫は、自宅で続けるうえで欠かせません。
動画と同じ方法を、そのまま当てはめない
人工呼吸器やチューブ類の位置、動かしやすい方向、安定する姿勢は一人ひとり異なります。その日の体調によっても変わります。
この動画は「同じ手順で切れば大丈夫」というマニュアルではありません。今回使用した道具や体位も、ひとつの実例です。
無理に一人で行わず、お子さんが普段取っている安全な姿勢を優先してください。判断に迷う場合は、日頃関わっている医療・ケア関係者や、医療的ケア児への対応経験がある訪問美容師などへ相談することも選択肢です。
2分半の短編と、詳しいロング版
短編では、準備から完成までの流れを約2分半で紹介しています。
使用した道具や体位の変え方、バリカンとはさみの使い分けを詳しく見たい方には、約10分のロング版もあります。
髪を切ることは、治療や医療的ケアそのものではありません。しかし、外出や姿勢の変更が難しい子どもの暮らしのなかでは、安全への配慮や介助、後片付けまでを含む大きな作業になります。
それでも、髪型を選び、整え、本人らしい姿を楽しむことは日々の暮らしの一部です。
具体的な工夫を共有することで、家族が選べる方法を少しでも増やせればと思います。