治療とアピアランスケアを同時に進められる環境づくりを【宮村 能子先生インタビュー】
大阪大学医学部附属病院小児科で、小児がんなどの治療に尽力されている宮村能子先生。大阪大学大学院医学系研究科では、血液腫瘍・免疫グループのチーフとして、小児の血液疾患や悪性腫瘍に関する研究にも精力的に取り組まれています。今回は、宮村先生に小児がん治療の現状や今後の課題、アピアランスケアにおける小児科医の役割についてお話を伺いました。
小児がん治療の課題は「治しながらQOLを高めること」
ここ10~20年の医療の進歩に伴い、小児がんの治療成績は大幅に向上しました。小児の急性リンパ性白血病の場合であれば、全体の8~9割は治癒するといわれています。このような小児がん治療の現状をふまえ、今後は大きく二つの課題に取り組んでいく必要があると宮村先生は話します。
ひとつ目の課題は、小児がんの子どもたちの生命予後をさらに改善していくことです。小児がんで命を落とす1~2割の子どもたちを救うことが、治療に携わる医師たちの共通した使命だといいます。
ふたつ目の課題は、治療が成功した8~9割の子どもたちの生活の質(Quality Of Life:QOL)を向上させることです。小児がんを経験した子どもたちは、治療に伴う脱毛や歯の欠損といった外見の変化に悩まされます。
「アピアランスケアは病気が治った子どもたちや、これから病気を治そうとする子どもたちのQOLを高めていくために、非常に重要なものだ」と宮村先生は話します。
外見の変化に戸惑う子どもたちをサポートする仕組みが必要
病気の子どもたちのQOL向上に尽力する医師が増えるなか、外見のケアに対する取り組みは遅れていると感じている宮村先生。
3~4歳くらいになると、治療の副作用で髪が抜けて落ち込んだり、肌が荒れて気になったりする子が出てきます。しかし、ひと昔前は「命に関わることではないから」「まだ子どもだから」といって、外見へのケアが軽視されるような風潮があったそうです。
また、患児や保護者のなかには、忙しそうな医師を前に「外見ケアのことは相談しにくい」と感じてしまう人もいるでしょう。
子どものアピアランスケアを広めていくためには、「まず本人や保護者が声をあげやすい環境を整える必要がある」と宮村先生は感じています。
情報提供のタイミングを見極めるのも小児科医の役割
子どものアピアランスケアにおける小児科医の役割は、「情報提供のタイミングを見極めること」だと考える宮村先生。入院直後は、病気や治療に関する情報提供が優先されますが、同室の子どもたちと関わるなかで、治療が始まる前から外見の変化に不安を抱く子どもたちもいます。
宮村先生は「情報提供のタイミングは、個々の状況に応じて慎重に検討する必要がある」と前置きしたうえで、「早い段階でアピアランスケアについて情報提供しておけば、治療によって外見が変化することへの心構えができたり、外見ケアに関して医療者に相談しやすくなったりするのではないか」と話します。
小児がんと闘う子どもたちのQOLを高めるためにも、保護者や医療従事者といった周囲の大人たちが、みんなでアピアランスケアに取り組めるような体制を整えていくことが求められています。
宮村 能子(みやむら たかこ)先生
大阪大学小児科 小児科専門医、日本血液学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本造血免疫細胞療法学会認定医、日本小児血液がん学会専門医・指導医
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