前編では、病気を経験した子どもが復学したあと、困りごとが見えにくくなること、そして、まだ言葉になっていない状態を一緒に整理する相手が必要になることを紹介しました。
後編では、メタバースを活用して2年間取り組んだ復学支援の実証から、子どもたちにどのような変化があったのか、継続的な対話と記録がどのような支援につながったのかを紹介します。
メタバースで始めた週1回15分の対話
「チャーミングケアブレーン」は、メタバースを活用した病気や障害のある子どもの復学支援プログラムです。
復学することだけを目的にするのではなく、子どもの「好きなこと」や「やってみたいこと」を起点に、自分の言葉で話す経験を重ねることを目指しました。
チャーミングケアブレーン実施概要
対象:1年以上の入院経験がある子ども
モニター参加者:子ども3名とその保護者
伴走期間:4か月
頻度:週1回
時間:1人15分
実施方法:メタバースを利用したオンラインでの対話
利用料:無料
参加したのは、小児がんや脳腫瘍、先天性心疾患などを経験した子どもたちです。
週1回15分という短い時間でしたが、定期的に話す機会を設けることで、そのときに考えていることや体調、気持ちの変化を継続して確認しました。報告書では、この時間を子どもの「心の棚卸し」と表現しています。
顔を出さず、アバターで参加できることもメタバースを使う利点でした。自宅から参加できるため、移動や体調の負担を抑えながら、その日の状態に合わせて話すことができます。
おすすめの本を5分間で紹介する書評イベント
夏休みの終わりには、子どもたちが自分で選んだ本を5分間で紹介する「書評ギャラリーイベント」をメタバース上で開催しました。
本を選び、紹介する内容を考え、発表資料を作り、人前で話す。毎週の対話で考えてきたことを、自分の言葉でほかの人に伝える機会です。
実際の発表音声
※本人・保護者の許諾を得た範囲で掲載します。
5分間の発表をきっかけに起きた変化
モニターとして参加した子どもの一人は、プログラムに参加する前、人前で話すことが苦手で、勉強にもあまり積極的ではありませんでした。
高校受験への不安から中学受験を検討していましたが、当初は本人の意欲が高い状態ではなかったといいます。
その子が書評ギャラリーイベントで、自分の選んだ本について5分間の発表に挑戦しました。人前で自分の考えを伝えられた経験が自信につながり、その後は中学受験にも前向きに取り組み、志望校に合格しました。
さらに後日、大学病院が開催した、がんサバイバー向けスポーツイベントで代表スピーチを務めています。
保護者からは、次のような言葉が寄せられました。
「自分の言葉で話してもいいんだということの背中を押してもらえたような気がします」
書評イベントで発表できたことだけが成果なのではありません。
何を紹介するかを選び、伝える内容を考え、少しずつ言葉にしていった過程があり、その先に5分間の発表がありました。
地域に戻った病弱児に届く支援の少なさ
2年間の実証では、復学後の子どもに必要な支援と同時に、その子どもたちと出会うこと自体の難しさも明らかになりました。
地域の医療機関との連携を試みましたが、民間団体との継続的な協働には至らず、プログラムの対象となる子どもへの案内や参加促進は限られました。
一方で、地域に戻った子どもたちには、「学習の振り返り」「コミュニケーション」「日々のコンディションの把握」といった支援がほとんどありませんでした。
特に病弱児は、医療的ケア児のような制度上の明確な分類がありません。療育的な支援が一時的に必要な状態であっても、医師の指示書や療育手帳などがなければ、公的支援につながりにくい場合があります。
学校へ通えていることと、支援が必要ないことは同じではありません。地域に戻ってから現れる変化を継続して見られる人と、その変化を相談先へつなぐ仕組みが必要でした。
高校生・大学生の育成と就労への展開
活動の過程を記録するという視点は、子どもが成長した後の進学や就労にもつながっています。
実証に使っていたメタバースサービス「DOOR」が終了した際には、小児がんを経験し、チャーミングケアの広報を担当していた高校生スタッフが、移設プロジェクトを主導しました。
新しいメタバースの構築には、技術的な知識だけでなく、利用する子どもの立場を考えた設計や、スタッフとの調整が必要です。高校生スタッフは、最初のワールド構築から継続して関わり、新しい環境への移設も完了させました。
病気を経験した子どもを、支援を受ける側に固定するのではなく、本人の得意なことを活動の役割や仕事につなげる。この経験が、高校生・大学生を対象とした現在の育成プログラムにもつながっています。
2026年3月には、配慮事項のある高校生・大学生を対象に、「ボランティア/業務委託育成プログラム」の公募を始めました。
全5回の研修と実際の活動を通じて、参加者が何を考え、どのように取り組んだかを記録し、修了時に課外活動証明書として発行します。全国からフルリモートで参加でき、修了後には個別のメンタリングも行います。
修了者のうち希望する人はボランティアとして活動に加わり、適性に応じて業務委託契約へ移行します。すでに、業務委託として活動している大学生もいます。
病気や配慮事項があると、課外活動や就労経験を得る機会そのものが限られることがあります。活動に参加する機会をつくるだけでなく、その中で考えたことや身につけたことを記録し、進学や就職の場で説明できる形にすることが必要です。
復学支援から始まった過程の記録は、病気や配慮事項のある若者の進学と就労を支える仕組みへ広がっています。
2年間の実証から現在のQケアへ
メタバースでの2年間では、週1回15分の対話を続けながら、子どもの言葉やコンディションの変化を記録しました。
その記録は、自分の言葉で発表する経験、中学受験への挑戦、必要な医療支援、高校生スタッフとしての役割など、それぞれの次の行動につながっています。
この実証で得た経験が、現在のQケアとQケア メンタリングに反映されています。
Qケア メンタリングの詳細は、案内ページで紹介しています。