『退院したら元通り』ではない 病気を経験した子どもが復学後に抱える“見えにくい困りごと”【前編】

Qケア

病気の治療を終え、子どもが学校へ戻ることになったとき、周囲からは「日常生活に戻った」ように見えるかもしれません。

しかし、退院できることと、病気になる前と同じ生活ができることは同じではありません。

治療中より体調は安定していても、以前ほどの体力はない。学校には通えても、一日過ごせば疲れる。治療中には気にならなかった勉強の遅れが、復学してしばらくしてから見えてくることもあります。

さらに時間が経ち、髪が生えたり、外見上の変化が少なくなったりすると、今度は周囲から「病気を経験した子ども」であること自体が見えにくくなります。

では、復学した子どもは実際に何を感じ、何に困っているのでしょうか。

チャーミングケアでは、抗がん剤治療を経験した子どもと保護者5組にヒアリングを行い、「治療中」「復学時」「外見の変化」について子どもの声を中心に整理しました。

そこで見えてきたのは、病気や治療そのものだけではなく、「今の自分を周囲にどう伝えればよいのか」という難しさでした。

復学してから気づく「以前とは違う自分」

ヒアリングでは、復学について、

「病気のことをわかってくれている人が学校にはいないので、不安だった」

「ずっとやっていたスポーツを諦めることになって悔しかった」

といった声がありました。

勉強についても、復学した直後から困るとは限りません。

最初は気にならなかったものの、しばらくすると周囲より計算が遅くなっていることに気づき、焦りを感じたという声もありました。

特に注目したいのが、治療中より体調は安定しているものの、病気になる前ほど元気ではなく、学校へ通いながら、自分がどこまで頑張れるのか分からないという声です。

これは、周囲から非常に見えにくい困りごとです。

入院している。
発熱している。
治療を受けている。

そうした状態なら、周囲も「配慮が必要」と判断しやすいでしょう。

しかし、

学校には行ける。
授業も受けられる。
見た目も少しずつ元に戻っている。

となると、本人が感じているしんどさは急に見えにくくなります。

実際、時間が経ち、病気を経験したことが外見から分からなくなったことで、「もう治っているのにサボっている」と教師から言われ、悔しい思いをしたという声もありました。

困りごとがなくなるより先に、困りごとが周囲から見えなくなる。

病気を経験した子どもの復学では、こうしたことが起こり得ます。

外見ケアも「物を用意すれば終わり」ではない

このヒアリングを行ったきっかけは、子どものアピアランスケア(外見ケア)についての調査でした。

チャーミングケアでは、全国の自治体が実施するアピアランスケア助成制度を継続的に調査しています。

2022年度には全国1,741市区町村のうち669市区町村、翌2023年度には904市区町村が助成事業を実施していました。

一方、2022年に制度を実施していた自治体へのヒアリングでは、回答のあった320市区町村における年間申請者7,036人のうち、子どもの申請者は11人でした。

制度は広がっている。

それでも、子どもにとって「いつ、何が必要なのか」は、大人ほど明確ではありませんでした。

子どもへのヒアリングでも、

「外見が元に戻るのか心配だった」

「入院中は同じような見た目の子も多いので気にならなかったけれど、外出や外泊、復学するときには気になった」

「ウィッグだと気づかれたくなくて、外すタイミングが難しかった」

といった声が出ています。

中でも印象的なのが、

「友達が外見について、どこまで気を使ってくれているのか分からないのが不安だった」

という声です。

ウィッグや帽子を用意することはできます。

費用について、助成制度を探すこともできます。

しかし、

「友達は自分をどう見ているのだろう」

「病気について、どこまで話せばいいのだろう」

「相手が気を使っているのか、それとも気にしていないのか分からない」

といった不安は、物品や制度だけでは解決できません。

外見ケアを調べていくうちに、その周辺にあるコミュニケーションの問題が見えてきました。

子ども自身も、自分の状態を説明できるとは限らない

ここで難しいのは、周囲の理解だけを増やせば解決するとは限らないことです。

子ども自身も、今の自分の状態を必ずしも明確に説明できるわけではありません。

病気になる前の自分とは違う。

けれど、「何が」「どの程度」違うのかはよく分からない。

学校へ行けないほどではない。

でも、以前と同じように動くのはしんどい。

友達と普通に話したい。

でも、病気についてどう説明すればよいのか分からない。

こうした状態では、「困っていることはありますか」と聞かれても、本人自身が答えを持っていないことがあります。

これは子どもの説明不足という話ではありません。

そもそも子どもは成長の途中にあり、自分の経験を比較する材料も、感情や状態を表現する言葉も、大人ほど多く持っているとは限らないからです。

学校側も手探りになりやすい

そして、子どもを迎える学校側にも難しさがあります。

病弱児教育について体系的に学ぶ機会は、すべての教員に十分用意されているわけではありません。

子どもの入院や退院、復学は事前に予測できるものでもなく、実際に担当することになって初めて対応を考えるケースもあります。

2024年に日本小児保健協会の学会誌『小児保健研究』へ掲載された「子どもの外見ケアとメタバースを活用したこれからの復学支援」でも、こうした背景から、復学について学校側も手探りになるケースが多いことを指摘しています。

子ども本人も手探り。

家族も、何をどこまで学校へ伝えればよいのか手探り。

学校も、その子にどのような配慮が必要なのか手探り。

支援する人がまったくいないというより、関係する人たちが、それぞれ限られた情報から「今、この子に何が必要なのか」を考えている状態です。

では、この「見えているもののズレ」を小さくするには、どうすればよいのでしょうか。

当時中学3年生の小児がんサバイバーが考えた、一つの方法

その一つの試みとして2023年に始まったのが、メタバースワールド「チャーミングケアラボ」でした。

中心となったのは、当時中学3年生だった小児がんサバイバーです。

本人自身が、復学後に学校の先生や周囲との「目線合わせ」に苦労した経験を持っていました。

治療の影響が外見に表れている時期は、周囲にも病気を経験していることが伝わります。

ところが、髪が生え、少しずつ運動もできるようになると、周囲からは回復したように見える。

本人はまだ以前と同じ状態ではないのに、「全力でやっていない」と思われることもあったといいます。

同じ病気を経験した人が周囲にいないため、共感し合えないことも多い。

そこで本人が着目したのが、外見を出さずにコミュニケーションできるメタバースでした。

アバターなら、実際の顔や身体を見せる必要はありません。

見た目を自分で選び、声とアバターだけで人と話すこともできます。

プロのクリエイターとともに本人がプロジェクトリーダーとして制作を進め、病気や障害のある子どもやきょうだいにも、ユーザビリティの確認に参加してもらいました。

論文にも、当時中学3年生だったがんサバイバーをプロジェクトリーダーとして制作し、累計9人の子どもたちが制作段階に参加したことを記録しています。

これは、大人が「病気の子どものために居場所を作ってあげる」という取り組みではありませんでした。

当事者である子ども自身が、

「どんな場所なら話しやすいのか」
「どんな関わり方なら参加しやすいのか」

を考え、大人やクリエイターがその実現に伴走する形で進めたものです。

必要だったのは「居場所」だけではなかった

当初から、単にオンライン上に集まるだけの場所を目指していたわけではありません。

イメージしていたのは、学校の委員会活動のような場でした。

何をするか相談する。

自分の考えを伝える。

誰かの話を聞く。

一緒に何かを作る。

そうした活動を通じて、自分のことや自分の考えを相手に伝える経験を増やせないかと考えていました。

言葉になっていない「モヤっとした気持ち」を、どう整理するのか。

復学後、本人が感じている自分と、周囲から見えている自分が一致しないことがあります。

しかし、その違和感を本人自身もうまく説明できない。

そこで一つの手段として考えたのが「雑談」です。

何か明確な悩みを相談するための面談ではなく、まず話す。

日常的な話をする中で、自分が何を感じ、何を考えているのかを少しずつ言葉にしていく。

顔を出さなくても参加できるメタバースなら、その最初のハードルを下げられるのではないかと考えました。

実際、参加した子どもからは、

「顔を見せないで話ができるので気軽に参加できた」

「同じような悩みや治療の経緯を経験した子と話せてよかった」

という声がありました。

一方で、半年ほど続けると別のことも分かりました。

「何か目的がないと、なかなか定期的に集まるのが難しい」

ということです。

子どもたちには学校があります。塾もあります。それぞれの日常があります。

「安心して話せる場所があります」と用意するだけでは、そこへ継続的に参加する理由にはなりませんでした。

場所を作るだけでは足りない。

では、子どもが無理なく参加しながら、自分の考えを整理し、誰かに伝える経験を重ねるには、どのような関わり方が必要なのでしょうか。

ここから始まったのが、週15分という短い時間でのコミュニケーション伴走と、「本の発表」などを使ったアウトプットの実践でした。

後編では、実際にメンタリングを受けた子どもの発表音声も紹介しながら、2年間の実践で何が見えてきたのか、そして現在の「Qケア メンタリング」へどのようにつながったのかを紹介します。


「困っていること」がまだ言葉になっていなくても

現在チャーミングケアでは、こうした実践をもとに、子ども本人の言葉を整理しながら学校生活や進路、自立などについて考える「Qケア メンタリング」を行っています。

対象になるのは、すでに相談内容が明確になっている子どもだけではありません。

「何となくしんどそうだけれど、本人もうまく説明できない」

「学校や進路について考えたいけれど、何から整理すればよいか分からない」

「保護者から見えていることと、本人が考えていることが少し違う気がする」

といった、まだ“相談”としてまとまっていない段階から利用できます。

Qケアを使い、「困っていること」だけではなく、「できること」「やってみたいこと」なども含めて本人の言葉を整理し、必要に応じて次の選択肢や相談先を一緒に考えていきます。

Qケア メンタリングについて

また、「どこへ相談すればよいか分からない」「そもそも何を相談すればよいのか整理できていない」という場合には、Qケア通信の事前相談ナビから情報を整理することもできます。

Qケア通信・事前相談ナビ

参考

本記事で紹介した復学支援、当事者ヒアリング、メタバースの実践については、日本小児保健協会『小児保健研究』第83巻第4号(2024年)掲載の「子どもの外見ケアとメタバースを活用したこれからの復学支援」にまとめています。